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最高裁判所第二小法廷 昭和35年(オ)1231号 判決 1961年12月22日

主文

原判決を破棄する。

本件を広島高等裁判所松江支部に差し戻す。

理由

上告代理人弁護士海野普吉、同猪俣浩三、同亀田得治、同大野正男、同柳沼八郎、同中田正子、同伊藤和夫の上告理由第一点について。

本件選挙の開票会で無効とした「ミヤギ」と記載された投票三票、「みやぎ」と記載された投票一票、「(略)」と記載された投票一票、「やさき」、「ヤサキ」「やざき」と記載された投票各一票、「高崎」と記載された投票二票合計一〇票について、原判決が、被上告人の自己に対する有効投票である旨の主張を斥け、開票会判定どおり無効としたことは、原判文上明らかである。しかるに、他の開票会で有効とした「みやぎ」と記載された投票一〇票、「ミヤギ」と記載された投票二票、「やざき」、「やさき」、「やさキ」、「ヤざキ」と記載された投票各一票、「高崎」と記載された投票二票、合計一八票については、原判決はその効力について何等の判断を示すことなく、その結果として、原判決の被上告人の得票数計算上、右一八票が被上告人の有効投票に算入されていることは、原審記録及び原判決によつて認めることができる。

当選の効力に関する訴訟で、候補者の得票数が争われる場合に、当事者の主張の有無にかかわりなく、裁判所がすべての投票についてその効力を判断することは事実上不可能であつて、当事者の主張がない投票についてその効力を判断すべき義務を負うものとは考えられない。公職選挙法二一九条は、同法一五章の規定による訴訟について、民事訴訟法を適用するほか、行政事件訴訟特例法九条をも適用することにしており、同条は裁判所の職権による証拠調を規定しているけれども、同条が争われていない事実について職権をもつて事実を探知し、証拠調をする義務までも、裁判所に負わせる趣旨とは解されない。

本件記録を精査するに、前記一八票について、上告人が原審口頭弁論において、その無効投票なることを明確に主張した刑跡は認められないけれども、これと全く同種内容の前示一〇票については、被上告人がこれを前記のごとく自己の有効投票である旨主張するに対し、上告人は終始これを無効投票として、その基礎に立つて双方の得票数の主張をしていることは記録上明白であるのみならず、右一八票についても、原審が投票の検証を行つた際に、上告人代理人は特にこれを選び出して受命裁判官の面前に顕出したことは検証調書の記載によつてあきらかである。とすれば右一〇票はもとより、これと全く同種内容を有する右一八票もひとしく本件当選無効の訴訟において争訟の目的の範囲内に包含されるものと解するのが相当であり、裁判所としてはかかる争訟の目的となつた投票については、これに対する当事者双方の主張を明確にしなければならないものというべきである。しかるに本件右同種内容を有する両様の投票の効力については、そもそも各開票会の決定自体にそごあり、これに伴つて上告人側のいうところもまた矛盾そごするものあり、その主張の甚だ明確を欠くことは記録上あきらかである。従つて原審としてはこの点につき当事者の主張を明確にする責務あるにかかわらず、原判決が一方において前示一〇票を無効と判断しながら、他方において特に当事者の主張を明確にすることなく、漫然前示一八票を有効投票として候補者の得票数に計上して正当な当選人を判断し、被上告人の当選を判定したごときは、当選訴訟の判決が対世的効力を持つことから考えても著しく不合理であるといわなければならない。

然らば原審がこれらの投票に関する上告人の主張を明確にすることなく、これらの投票が有効とされたままで被上告人の得票数を計算し、上告人の得票数より多いとして上告人の当選を無効としたのは、上告人の主張を明確ならしめるための釈明を尽さなかつた違法があるものといわなければならない。そして、原判決が上告人の当選を無効としたのは、被上告人の得票数が上告人の得票数より一六票多いということにあることは原判文上明らかであるから、上述一八票の効力の判断いかんによつて、判決の結果が異ることもありうることは明白であつて本件上告は、この点において理由がある。

よつて、他の論点について判断を加えるまでもなく原判決を破棄すべきものとし、民訴四〇七条一項により、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)

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